「ぼくね、あんまりべんきょうできないけど、おかあさんのおてつだいはいっぱいするんだよ!」
少年は自慢げに胸を張りながらそう言った。
「ええっとね、おかいものにいったり、おさらをあらったり、おふろをそうじしたりするんだ、そうするといつもおかあさんがほめてくれるの!」
よほど「おかあさん」が好きなのか、少年はずっと「おかあさん」に褒められた話ばかりをしていた。
「おかあさんがね、いつもつかれたかおしててもぼくがいいこにしてると、あなたはききわけのいいこね、っていってわらってくれるんだ!だからね、ぼくはおかあさんのいうことをぜったいにきくんだ!」
嬉しそうに、無邪気な笑顔を見せながら、少年は真相を語り始める。
「あのひもね、おかあさん…あのおじさんにぶたれてたの。あのおじさん、いっつもおかあさんをぶつんだよ?」
おじさん、と言うのは少年の母親が再婚した相手の事らしい。彼は頑なに義父を父とは認めようとはしなかったのだと、調書には書かれている。
「それでね、おかあさん、あのひにね、もういっそのこと、ころしてって、そういってたんだ」
そう、そして
「だからね、ぼくおかあさんのことをころしたの!」
先程と同じように、まるで自慢するかのように、無邪気な笑顔を見せる。
「でもおかあさんほめてくれないんだ、ずーっとほめてくれるのまってたのに…おじさんもころしたんだよ?それなのに…」
少年の顔が初めて曇る。大好きな「おかあさん」にほめてもらえなかったのが、悲しいのだろう。
でも少年は二度と「おかあさん」にほめてもらうことは出来ない、きっとそれは理解していないし理解をしようとしないだろう。
「ねえ、おじさんは…ぼくのことほめてくれる?」
上目遣いに、こちらをじっと見つめてくる。その無垢な、あまりにも純粋な目に、私は目を逸らす事もできず。
ただ、しばらく見詰め合った後、私は小さな部屋から去った。